怪獣の部屋

38.東映編

この豪華キャストを見よ!松方弘樹、大友柳太郎、天津敏、小川知子、金子信雄。その名は「怪竜大決戦}(’66/12) 水木しげる原作の「悪魔くん」(’66・テレビ朝日)登場の妖怪百目(別名ガン魔)当時、ずいぶんうなされた記憶が・・ (’75/4)ちょっと目に力が入り過ぎるのが最大の魅力の千葉ちゃん。ビビっときた方は「ゴルゴ13/九竜の首」(’77)もどうぞ。 マニアの方も意外と見落としがちなのがこれ。「宇宙快速船」(’61/7)千葉真一演じるヒーローは”アイアン・シャープ”! (’66/7)監督・佐藤肇、やっぱり目に力の入ってる千葉真一と、共演はパツキン・ペギー・ニール。音楽・菊池俊輔!ok!
 昭和の末、1985年から’87年ごろにかけて、皆さんはどんなTV番組に熱中してたのだろうか。僕が毎週欠かさず観てたのは木曜夜7時30分、何を隠そうズバリ、「スケバン刑事」だった(隠せ!)。死刑囚の母親を救うため、落ちぶれてマッポ(警察!)の手先の学生少女刑事(!?)となったスケバン・麻宮サキが、桜の大門入りの鋼鉄製ヨーヨーを操り、敢然と悪に立ち向かう・・書いててもよく訳の分からない、ものすごい設定のこのドラマ。演じる初代”斉藤由紀”のイメージギャップも手伝って、放送半ばから視聴率はハネ上がり、一大人気シリーズへと発展を遂げる。続く南野陽子演じるファン待望の第2弾・・。しかし、その設定は僕らの想像をはるかに超えたものだった。その名も「スケバン刑事U−少女鉄仮面伝説」。17歳まで無理矢理鉄仮面を被せられていたという凄まじい過去を持つ五代陽子(南野陽子)は、「頭とかちゃんと洗ってたのか?」という僕らの心配をよそに、無事二代目スケバン刑事−麻宮サキを襲名し、学園を影で操る青狼会に、ヨーヨーと土佐弁(!)で敢然と・・んごんぐ。当時なぜか僕らをTVの前に釘付けにし、おもいっきり仰(の)け反らせた、異色のこのシリーズ。はたしてあの人気は何だったのか。そもそもあれは一体何のジャンルに属するのか。刑事ものなのか、それとも学園アイドルものなのか、はたまたアクションものか・・。全部違う。これは「東映もの」なのだ。

 東映・・、その魅力を一言で語るのは難しい。ご年輩の方々には、「笛吹童子」や「紅孔雀」などの美剣士もの、あるいはTV黎明期の「ナショナルキッド」や「七色仮面」などに思い入れがあるに違いないし、僕らの世代は、なんと言っても「仮面ライダー」に尽きる。もうちょっとお若い方たちには、「戦隊もの」を付け加えなければならないだろう。でも東映の魅力は、これらのヒーローものだけではない。特撮はもちろん、アクション、任侠、時代劇、アニメーション、さらにはポルノまで、幅の広い(悪く言えば無節操な)守備範囲と娯楽に徹するサービス精神こそが、その最大の魅力なのである。つまり東映作品に、文学の匂いや芸術の香りを求めてはいけない、ということ。これは決してケなしてるのではない。伝統やしきたりにこだわらず、おもしろいものはなんでも取り入れる、という、ある意味日本人に欠けているものが、東映作品には、溢れてるんだ。例えば、僕が幼い頃夢中になった「キイハンター」(’68〜’73・TBS)、これもジャンル分けに困る作品のひとつだ。簡単に言えば、キイハンターと呼ばれる国際警察のメンバーの活躍を描いたドラマなんだけど、その内容はアクションあり、スリラーあり、任侠あり、ウェスタンまでありの、今思うと全くもって荒唐無稽のドラマだった。でも僕は、あの土曜夜9時が未だに忘れられない。

シャツの袖握って「バンデル星人!」ってよくやったよね。え、やったことない?そ、そうっすか・・。 キャプテンウルトラ。なんと言ってもオープニングテーマの素晴らしさに尽きます。”♪つーきも火星もはるかに越ーえーてーえっえ〜っ・・”ああ大声で歌いたい! 3000フィートの海底に人知れず建設されていた海底帝国・・。そこでは人間がなんと半漁人に改造されていた!(海底大戦争より) (1968/12)監督深作欣二!ロバート・ホートン(ボーンじゃないよ)スタトレとは関係なし。ガンマ星人登場
 東映の創立は、昭和26(1951)年4月1日。大手5社中の最後発、唯一戦後に創られた映画会社だ。新興の映画会社ということで、東映は様々な市場拡大策に打って出る。まずは、他社がことごとく失敗に終わった毎週二本製作配給体制の確立。これによって映画館主は、安価に2本立て興行を組めるというメリットが発生し、その専門館は急激に増加する。次に東映が取り組んだのは、連続活劇の復活だった。連続活劇・・これは、「主人公の運命やいかに!」というハラハラドキドキの展開が続く連続もので、数話でひとつの物語が完結するという、戦前に人気の出た興行形態だった。しかし、映画の長編化に伴ってこのスタイルは次第に廃れ、戦後は全くみられなくなっていた。果たしてそんな過去の遺物が受け入れられるのか?しかし勝算はあった。東映がターゲットに定めたのは、子供たちだったんだ。
 この子供向けプログラムは、「東映娯楽版」と銘打たれ、戦後の娯楽に飢えていた僕らのお父さんやお母さんたちを、熱狂の渦に巻き込んだ。「ああ、あのお子様向けチャンバラ映画ね・・」なんておっしゃるあなた、それは全然違う。最大のヒット作「新諸国物語シリーズ」は、驚くなかれ剣と魔法のヒロイックファンタジー(!)だし、「怪傑黒頭巾シリーズ」は背中の刀に加え、腰のガンベルトには二丁拳銃という、ズバリさすらいのウェスタンヒーロー。おなじみの「少年探偵団シリーズ」や「月光仮面シリーズ」については、もう特に説明の必要はないだろう。これらの大ヒットで、東映は発足わずか4年目にして東宝、日活、大映を抜き去り、一位の松竹にあと一歩まで迫る業界第二位の座に大躍進を遂げる。

 昭和30年代半ば、一般家庭にもテレビが普及し、毎週タダで観られる連続TVドラマの出現により、「東映娯楽版」はその使命を終える。邦画業界は斜陽の時代に突入していた。他社が大作化やオールスター共演作などで活路を見出そうとする中、ここで東映はまたしても驚くべき行動に出る。なんとTV作品をそのまま劇場にかけちゃったんだ。TVまんが「狼少年ケン」や「少年忍者 風のフジ丸」の再編集版は、ネットの関係でまだテレビ未放映の地域が多かったことも影響して、予想を裏切る大成功を収める。昭和40年代に入ると、長編1本にテレビアニメ2、3本をパックにした、後の「東映まんがまつり」の原型ともいえる興行スタイルがほぼ確立され、その安定した観客動員は、映画産業存続のためのひとつの方向性を示すことになる。劇場ロビーは家族連れで溢れ、試しに並べたキャラクター商品は飛ぶように売れた。

(’60/10)核戦争の恐怖を描いた東映らしからぬ異色作。出演梅宮辰夫・三田佳子!

 昭和50年代に入ると、年間映画人口はピーク時の約十分の一の1億台にまで落ち込む。”テレビ”という怪物は、いつのまにか、かつての娯楽の王者”映画”を打ち倒してしまってた。大映、新東宝は倒れ、日活はロマンポルノで生き延びる道を選び、東宝は製作部門を大幅に切り捨てて配給会社と化した。老舗の松竹はもはや闘う気力もなく、寅さんだけが頼みの綱となる。唯一”メディアミックス”路線で健闘した東映も例外ではなかった。「需要90パーセント減」、これは、ひとつの産業の崩壊を意味する。この数字の前ではどんな優れた戦略も無意味だ。カンフーブームに便乗し、スターウォーズの時はSFブームに便乗し、日活に便乗してポルノを作り、やくざ路線で血の雨を降らせ、文字通りテレビと血みどろの戦いを繰り広げた東映も、映画館に再びあの活気を呼び戻すことはできなかった。映画は終わったのか・・?
「怪竜大決戦」の大ガマ。お城の宴会での登場シーンや大暴れのミニチュア破壊は、なかなかの見物。この勢いで翌’67には「赤影」製作へ。 (’72/3)いつも東宝チャンピオンまつりと、どっち行くか迷いに迷って、結局「ゴジラ」でした。 (’77/4)「ジョーズ」に始まった動物パニック物のノリで結構恐かったっす。 「宇宙からのメッセージ」(’78/4)これも深作!それSFブームに乗り遅れるな! 「里見八犬伝」(’83/12)またも深作、千葉真一!やっぱ東映は時代劇! 史上最大の脱ぎ損片岡礼子他、ツッコミどころ満載の注目作。(’97/12)
 減収→制作費減、の悪循環を繰り返す邦画の断末魔を尻目に、黄金期をむかえたTV。実は映画の魂はこのTVのほうにシフトしていた。僕が子供の頃の昭和40年代から50年代半ばにかけて、TVは圧倒的に面白かった。大映の生え抜き、増村保造は、大映テレビで極限の人間ドラマに挑み、巨匠・三隅研二は「必殺シリーズ」を、市川崑は「木枯らし紋次郎」を、勝新の「座頭市物語」や萬屋錦之介の「子連れ狼」(第1話監督は石井輝男!)が、時代劇の昭和黄金期を築き、東映の大御所、深作欣二は「キイハンター」から「Gメン'75」へと続くTBS土曜夜9:00枠で映画顔負けのアクションを撮りまくり、久世光彦のTBS水曜夜9:00「水曜劇場」はドラマのひとつの壁を超えた。変身ヒーローものでは、子供番組の名を借りて、若き映像作家達が胃の痛くなるような息苦しい苦悩のドラマを繰り広げ、子供たちに現実の厳しさを叩き込んでいた。夕方4時に「キイハンター」の再放送を観て、続けて「タイガーマスク」と「仮面ライダー」。夕ご飯で一息ついて、「なんたって18歳」の岡崎友紀に大笑いしたあとは、百恵ちゃんのほのぼのホームドラマ「顔で笑って」で決まり。BGMはもちろん菊池俊輔。ド派手なブラスとストリングスのスコアに、僕らは脳天まで痺れた。ブラウン管からほとばしる毒気に、お母さんたちはちょっと眉をひそめていたけどね・・。

 「スケバン刑事」放送の前年、世間を震撼させたもうひとつのスケバンドラマがあった。大映テレビが放った「不良少女とよばれて」がそれだ。オープニング、スモークとバックライトに浮かび上がるギンギラギンの伊藤麻衣子に、誰もが一瞬我が目を疑った。これが大映テレビ?仮面ライダーじゃないの?80年代のツッパリブーム(!)との相乗効果もあって、たちまちこのドラマは大ヒット。巷の女子高生のスカートの長さは最高長に達し、再びひざ上へと後退するまでの約10年間、僕らは暗黒と絶望の時代を生き抜いてゆくことになる。スケバン、不良、アクション、集団抗争劇、すべてがそのお家芸である東映が、この大ヒットをただ指をくわえてみているはずがなかった。「スケバン刑事」シリーズはVまで続き、劇場版が2本、その後も「少女コマンドーいずみ」「花のあすか組!」と、この路線は数年間続く。「おまんら、許さんぜよ!」セーラー服の美少女に啖呵(たんか)を切らせ、ビー玉のお京・お嬢様スケバンの雪乃と敵地に赴くところは、まさに東映ヤクザ路線。ヨーヨーに仕込んだ桜の大門は、水戸黄門の印籠。シャープなアクションは特撮ヒーローそのまんま。対決の時に鉄仮面をつけて、変身ヒーローものの要素を付け加えなかったのが唯一惜しまれるところだ。Vに至っては本当に忍者を出してしまい、原作のファンを完全に置いてきぼりにしてしまっている。この潔さ!「東映もの」とは、つまりそういう意味だ。

(’58/8)疾風のように現れて〜ご存知月光仮面。TV版に替わって東映劇場版主演は大村文武 梅宮辰夫兄いの「遊星王子」!(’59/5)ツッコミどころはあえて触れずにおきましょう。 (’66/12)佐藤肇、菊地俊輔、千葉真一の黄金トリオでどうだ!ワハハハハハハ・・ これなーんだ?え、パイナップルボーイ?なんじゃそりゃ。答えは「七色仮面」(’59/12) マ゛!重厚なアクションのジャイアントロボ。最終回は日本中が涙にくれました。 東映まんがまつりの前身。ゴジラ最大の敵は、実はこの東映家族番組でした。(’66/7)
 映画とTVの栄枯盛衰のなかで、常に子供たちと共に歩んできた東映。評論家には今一つウケの悪い、勢い先行の傾向はあるものの、僕たちに与えた影響は絶大だ。子供向け特撮ヒーロー以外は、かつての「東映もの」が影を潜めて、なんとなく寂しい思いを感じているのは決して僕だけではないはずだ。最新のSFXを駆使した「新諸国物語」。シャープなアクションの「鞍馬天狗」。テロリスト犯罪に立ち向かい、腐った権力者を叩きつぶす「新キイハンター」。やるべきことはまだ残ってる。休憩時間は終わりだ!毒にも薬にもならない、ユルいバラエティー番組を観ながら、僕はふとブラウン管の向こうに、フラッシュバックの幻が浮かぶんだ。ほら、砕け散る波しぶきのなかに、南野陽子のあの啖呵が聞こえてこないか?

 「なめたらあかんぜよ!」

(2002/5)