怪獣の部屋

37.宇宙人編

 宇宙人あるいは異星人・・。今の子供たちはこの言葉を聞いてどんな感情を抱くんだろうか。僕たち60年代生まれにとっては、それは紛れもなく恐怖の対象、すなわち”幽霊”や”怪物”なんかと全くの同義語だった。これはもちろん矢追純一の”木曜スペシャル”の功績(!)大であることは言うまでもないが、加えて当時大量に発刊されていた、悪戯に恐怖心をあおる児童書の存在というのも忘れてはならない。当時のこの手の児童書といったら、全く手加減というものを知らなかった。ただひたすら強烈なイラストと淡々とした語り口の説明文が続き、おふざけや息抜きは一切無い。そのストレートで実直な編集方針には、ある種の清清しさすら感じられる。以下に掲載した「なぜなに空飛ぶ円盤のふしぎ」(小学館)もそんな中の一冊だ。同種の他のものに比べたら比較的抑えた内容ではあるが、それでも当時、僕はこれを買ってもらったことを強く後悔した。今回は、そんな70年代の雰囲気を再現しつつ、皆さんに当時のゾクゾク感を少しでも思い出していただければ幸いである。
いたいけな子供たちを恐怖のどん底に叩き込んだ罪な奴。でも大好きだす〜!by小学館 黄色い矢印には「ここに宇宙人がいる!?」との説明文が。そしてこれ以外の一切の説明は・・ない。う、うわぁぁぁぁ あまりにも有名な衝撃の一枚、「捕らえられた宇宙人」(!)このタイトルで、誰もが瞬時に理解します。 コンタクティー、ハワード・メンナー氏が撮影したという宇宙人。 実体の危うい雰囲気がいい感じ。出所他一切不明!
 「はるか有史以前、今以上に発達した文明を謳歌していた人類であったが、突然の天変地異によって、その繁栄は終末をむかえた。ほんの一握りの人達が災厄を逃れ、やがてその子孫たちが現在の文明を築いたが、長い時の流れの中で、一部のテクノロジーについては忘れ去られてしまった。ピラミッドやストーンヘンジをはじめとする時代不相応な遺物は、この失われたテクノロジーによるものである。」 もう一発、「はるか有史以前、まだ文明を持たない野蛮な未開人であった人類に、別の惑星から地球を訪れた異星人が文明を授けた。これによって世界各地で爆発的に文明が開花したものの、異星人たちが去ったあと、一部のテクノロジーについては忘れ去られてしまった。ピラミッドやストーンヘンジをはじめとする時代不相応な遺物は、この失われたテクノロジーによるものである。」

 超古代文明ファンにはたまらないこの二大人気パターン、僕はどちらかといえば、他人の力を借りずに自力で発展した前者のほうに好感が持てるんだけど、異星人介入型の後者も非常に根強い人気がある。この場合の”お節介な”異星人は、人類に知恵を授け、指導し、あるいは遺伝子操作や交配(!)によって進化を促進させる。さらには”肉体を造り替える”なんて過激ヴァージョンまであり、そのイメージはまさに”神”そのものである。宇宙人と遭遇し、交信を持つことが出来た現代のコンタクティー達の多くが、一種の”教祖”と化してしまう理由は、ズバリ、ここにある。彼らはいわば神の使徒、すなわち選ばれた人間なのだ。僕は、決して彼らが法螺吹きだと言っているわけじゃあない。多分そのきっかけとなる、何らかの不思議な体験はあったに違いない。しかし彼らは突如、”落とし穴”にすっぽりと陥ってしまった・・。笑っているあなた、油断は禁物だ。なぜならこの落とし穴は、誰もが −そう、あなたですら− 陥る可能性のある落とし穴なのだから・・。

 有史以前に、今よりも進んだ文明が存在したのでは・・?という、誰もが胸躍らせる、とっても魅力的なこの仮説、かく言う僕も、実はアトランティス伝説などが真実だったらいいのに・・と願う超古代文明ファンのひとりである。いずれにしても、これらの説の信奉者たちは、その裏付けとなるさまざまな根拠を提示する。不思議な遺跡、旧石器時代の壁画、旧約聖書や神話の一節、そして極めつけが”オーパーツ”!

 オーパーツ(OOPARTS)。「何それ?」って方のためにちょいと解説しておこう。これは、奇現象の研究で有名なアメリカの動物学者アイヴァン・サンダーソン氏が提唱した造語で、Out-of-Place-Artifactsの略、すなわち”場違いな出土品”という意味である。場違いな出土品・・、例えば1968年6月、アメリカのユタ州で発見された”五億年前のサンダル靴跡の化石”というものがある。「5億年前にサンダルを履いた人間が?きっと最近出来た靴跡の時代鑑定を間違えたんじゃないの?」うん、当然の意見だ。僕もそう信じたい。でもそれは有り得ないんだ。なぜならその靴跡は、二億八千万年前に絶滅したはずの三葉虫を踏み潰しているのだから・・。あるいはこんなのもある。”ピリ・レイスの地図”。1929年にイスタンブールで発見されたこの古地図は、16世紀はじめに製作されたものであるが、なんと驚くべきことに氷に覆われる前の南極大陸の海岸線が描かれていたのである。この地図は、いくつかの古代の海図をもとに編纂されたものらしいが、その古代の海図を製作した人達は、いかにして南極大陸の存在を知り得たのだろうか。我々ですら氷の下の正確な海岸線を知ったのはごく最近のことであるというのに・・。

これも超有名!「3mの宇宙人」あるいは「フラットウッズの怪物」として周知 ブラジル・サンパウロのアレーゼさんが遭遇した金星人アグ。彼女は円盤に乗せられ、金星へ連れて行かれたんだって。1968/2/11 同左。ここで僕は彼女の証言の真偽についてとやかく言うつもりは全くない。しかし一つだけ文句を言わせてもらいたい。「アレーゼさん、イラストと全然違うやん!」 スイスのコンタクティー、ビリー・マイヤー氏の一押し。プレアデス星の美人操縦士セムジャーゼ
 「マ、マジか!?」と、思わず中腰になったあなた。そんなあなたは、もう”落とし穴”に片足突っ込んじゃってる。確かにこれらのオーパーツ、衝撃度とインパクトは絶大だが、「ちょっと待てよ」と冷静に検証する姿勢も忘れてはいけない。例えば”五億年前のサンダル跡”、写真をみてみると、”サンダル”と、言われて見ればそうも見えるし、自然の模様が偶然このように見えてるような気が、しなくもないこともなくはない。ピリ・レイスの地図だって、種を明かせばそう驚くことではない。そもそも古代地図で、南極に島や大陸が描かれていること自体、そう珍しいことではない。古代ギリシャ人は、地球全体のバランスからみて、南半球には北半球の陸地に見合うだけの未発見の大陸(テラ・アウストラリス・インコグニタ)があるに違いないと考えていた。古地図には、よくこの想像上の南極の陸地が描かれているんだ。さらにピリ・レイスの地図に描かれた南極大陸と言われている部分は、実は南極大陸かどうかすら疑わしい。なぜならその海岸線は南米大陸と繋がっている上、ピリ・レイス自身による次のような注釈が入れられているからだ。「この地は非常に暑い」(!)

 ずっこけるのはまだ早い。ここで僕らは、永らくオーパーツの代表格とされてきた「ザルツブルグの鋼鉄立方体」についての驚くべき歴史について、学んでおく必要がある。オカルトファンの間ではかなり有名なこの超A級オーパーツ、そのイメージとは凡そ次のようなものである。「ザルツブルグ博物館には、なんとも不思議な驚くべき物体が展示されている。それは約50ミリ四方のほぼ立方体の形をした、鋼鉄製の加工物であるが、これは1885年、オーストリア中北部の鋳鉄工場で、なんと燃料の石炭塊の中から発見されたものである。」この解説がもし正しければ、人類の、いや地球の歴史をひっくり返す一大事である。しかし・・。結論から言おう。今ではそれは幻のオーパーツであったことが判明している。残念なことに、この物体は立方体ではなく、鋼鉄製でもなく。さらには加工物でもなく、なんとザルツブルグ博物館に展示されているという事実すら、なかったのである。これはいったいどういうことなのだろうか・・。

 最初の報告者とされるグールト博士によると、この物体は第三紀(約7000万年前)の褐炭にくるまれており、成分は鋼鉄か隕鉄という分析結果で、磨かれたような表面と溝は、隕石が落下するときの摩擦熱と回転から生じたものではないか、と述べてられている。この後、1886年には、英国の科学雑誌「ネイチャー」に、翌年にはフランスの科学雑誌「ラストロノミー」に紹介され、次第にその認知度が拡大されていく。しかし、この時すでに、展示されているとされる博物館名は、似た名前のそれとすり替わってしまっている。つまり、いずれの報告者も現地を訪れていないということ。もし実物を確認していれば、それが立方体とは似ても似つかないものであることに気がついただろうに。少し時代が下って1919年、アメリカの奇現象研究家チャールズ・ホイ・フォートの著書「呪われしものの書」で紹介されると、一気にその知名度は上がり、多くの人に第一級のオーパーツ(という言葉はまだなかったが)として認識されるようになる。さらに時代が下って1960年代、UFOや超古代文明の話題が盛んになったころ、フランスのある科学ライターによって、典型的なオーパーツの例として次のように紹介される。「ザルツブルグ博物館に今も展示されている、この完全に規則的な鋼鉄の六面体はどこに起源するのか?」。このあたりで、天然物は加工物に完全にすりかわっている。さらに旧ソ連では、翻訳者が「六面体(parallel piped)」を「平行(parallel)する二本のパイプ(piped)」などと大誤訳したおかげで、「オーストリアの炭坑の地底深くで発見された三万年前の”鋼鉄製平行管”」なんてものすごい紹介をされてしまう。こうなったらもう手の付けようがない。一部の良心的な研究者によって、正確な所在や立方体とは程遠い形状、その成分が鋳鉄であること(発見場所は鋳鉄工場!)、などが報告されたものの、今でも多くの人々が「ザルツブルグの鋼鉄立方体」をオーパーツの代表格として認識している事実になんら変りはないのである。

1957/10/15ブラジル。アントニオ・ビラス・ボアス氏のコンタクティー事件を描いたイラスト。児童書ではここまでだが、なんとこの後アントニオ氏は、金髪のおねえちゃん(宇宙人)との数時間に及ぶSEX(!)の末、精子を採取されたらしい。 1961/9/19米。史上最も有名な、バーニー・ヒル夫妻アブダクション(誘拐)事件のイラスト。逆行催眠による真相の判明やグレイタイプの宇宙人像など、この手の事件のスタンダードとも言えます。 青森県亀が岡にて出土の中偶大土偶。そのサングラスのような目の造形から、通称「遮光器土偶」と呼ばれる不思議なオブジェ。子供の夢膨らませる名イラストですねえ。
 宇宙人情報もまさにこれだ。より面白いほうへ、よりセンセーショナルなほうへと情報は変化する。送り手もちょっとしたサービスを入れたくなるし、聞き手の耳もそいつを欲しがってしまうのだ。例えば、かの有名なアブダクション事件の元祖、”ヒル夫妻(ヒルの夫婦じゃないよ)誘拐事件”を例にとってみよう。事件のあらましはこうだ。1961年9月19日、バーニー・ヒルと妻ベティ・ヒルがバカンスの帰り道、ニューハンプシャー州のインディアンヘッドを車で走行中のことだった。ふと気がつくと、車の後から明るく輝く物体が追いかけてくるのがみえた。動転した彼らは、追跡から逃れようと猛スピードで車を走らせるのだが、ここから二人の記憶は、約2時間ものあいだ抜け落ちてしまう。気がついたとき、彼らは車ごと、56キロも離れたところに移動していた・・。二人の”空白の2時間”の記憶が戻ったのは、それから二年半後のことだった。逆行催眠による治療のなかで、なんと二人は円盤の中に連れこまれ、様々な身体検査をされたことを思い出したのである。彼らを検査した宇宙人たちは、身長約1.5メートルで左右に吊り上った大きな目、鼻は穴だけが開いており、唇のない、いわゆるグレイタイプの元祖ともいえる宇宙人像だった。

 ヒル夫妻が、このネタ元となったなんらかの不思議な体験をしたことは、恐らく事実だろう。しかし、以下のような事情については、語られないことが多い。まず、彼らがこれ以前にも、様々な超常現象を体験していること。事件の後、奇妙な夢を見つづけ、最初は夢の中で記憶が戻ったこと。事件の発端となった光る物体が、実は木星であった可能性が非常に高いこと。宇宙人像については、当初その証言にグラつきがみられたものの、幾度目かの催眠治療で、いわゆる”グレイタイプ”の宇宙人像に落ち着いたのであるが、そのイメージが、証言の数日前にTV放映された「アウターリミッツ」に登場の宇宙人にクリソツだったこと(!)。などなどである。いろんな文献の中では、盛り上がりに水をさすようなこういった事実は、ほとんどの場合黙殺されてしまう。そして、ヒル夫妻の”第4種接近遭遇”のセンセーショナルな事実(かな?)だけが一人歩きを続けるのである。

 このような円盤目撃や、宇宙人との遭遇事件が頻発するようになったのは、1950年代から70年代にかけてのことだった。時代はまさに米ソ冷戦と宇宙開発競争の真っ只中、人々が、核の凄まじい破壊力を目の当たりにして、にわかに自分の未来、いや人類の未来について、強い不安感を抱きはじめた時代でもあった。今までのレベルを遥かに超えた、地球滅亡という未曾有の危機に、僕らは人類史上初めて直面したわけだ。そんな中で、誰もが新たな規範と世界平和の実現を切望していたまさにその時、宇宙人たちは絶妙のタイミングでやってきた。彼らが多くのコンタクティー達に向けたメッセージは、どれも”平和”と”友愛”に満ちていた。彼らは間違った方向に進もうとしている人類を、正しい道へ導こうとしていた。「落とし穴」は、まさにこの時、ポッカリと口を空けた。落とし穴に落っこちてしまった人、片足突っ込みかけてる人、僕は彼らを批判する気は全くない −たとえ一部の人達がトリック写真を本物だと偽ったり、体験談なんかを出版して大儲けをしてしまったとしても−。でもこれだけは言っておきたいんだ。神を信じても、宇宙人に指導してもらっても、決して悪いことではないけれど、未来を切り開くのは他の誰でもない。それはまぎれもなく・・、僕ら自身なんだってことをね。

どうみても地球人の女性にしかみえないこの人。しかし実は金星人(!)。人は見かけによらないとはまさに。アダムスキー御大(右)講演時のことでしたとさ。 円盤探知機の作り方−by南山宏(!)ったく子供だと思ってぇ。 旧石器時代に描かれた壁画の数々。「古代人は宇宙人とコンタクトしていた!」とか「人類の祖先は異星人から文明を授かった!」なんてネタの”証拠品”として度々使われます。でも「もしかしたら・・」と、ふと思わせるところがなかなか絶妙。やるな、ご先祖様!
 夜ベッドに入る。窓の外がなんだかいつもより明るい気がする。こんなときは気をつけたほうがいい。突然彼らが入ってきて、あなたを他の星へ連れて行ってしまうかもしれない。え、鍵を掛けとけばいいじゃないかって?いや、そんなことは全く何の意味も持たない。なぜなら・・そう、彼らは宇宙人なのだから。

(2002/4)