怪獣の部屋
36.フランケンシュタイン編
第1作「フランケンシュタイン」('31・米ユニヴァーサル)映画史に残る空前の大ヒット! | ロン・チャニー・Jr.カーロフに継ぐ2代目。4大モンスター役全てを演じたのは彼だけです。 | ユニヴァーサル第2弾「フランケンシュタインの花嫁」('35・米)花嫁の髪型もイカすシリーズ中の最高傑作。 | ユニヴァーサル6作目「フランケンシュタインの館」('44)からの数本を演じたのはグレン・ストレンジ。おそらく僕らが思い浮かべる怪物のイメージは、大抵この人のパターンです。 | 元祖ボリス・カーロフ。メイキャップのジャック・ピアースと共に作り上げた特殊メイクの金字塔! |
1816年の夏、スイス・ジュネーブ湖畔のとある別荘に、夜ごと乱交パ・・いや、文学談義に花を咲かせる若い男女があった。彼らの名は、情熱の詩人バイロン、彼の愛人のクレア、医師ポリドーリ、詩人のシェリー、作家W・ゴドウィンの娘で後にシェリー夫人となるメアリらである。そこへ訪ねてきたゴシック小説家マシュー・ルイスが、彼らにこんな話を持ちかける。「ドイツの怪奇ロマンの向こうを張って、ひとつみんなで官能・・もとい、恐怖小説を書いてみようじゃないか」。このちょっとした思い付きが、後に万人の深層心理にまで突き刺さる、史上最高の官能(ええいくどい!)いや恐怖小説を生み出すことになろうとは、当の本人ですら思い及ばなかったことだろう。バイロンを筆頭に、誰もが完成までこぎ着けることができない中、彼らの中で唯一小説を完成させたのは、意外にもメアリ・W・ゴドウィン(後のメアリ・シェリー)だけであった。そう、小説「フランケンシュタイン」は、なんと19歳のうら若き女性の手によって生まれたのである。 原作「フランケンシュタイン」は1818年に初版が発行されると、たちまちのうちに話題を呼び、以降、世紀を越える大ロングセラーとなるのはご存知のとおり。しかし、この物語が万人の知るところとなるのは、やはりスクリーンへの登場に負うところが大きいのは言うまでもない。フランケンシュタインの映画化は、1910年のエジソン・フィルム版をはじめとして、サイレント時代に数本の作品が作られている。が、その怪物のイメージを決定付けたのはやはりこれ、「魔人ドラキュラ」の大ヒットに気をよくして、ユニバーサルが放ったゴシックホラー第二弾「フランケンシュタイン」('31)だ。当初ユニバーサルは、ドラキュラ役で人気絶頂のベラ・ルゴシを人造人間役に予定してた。しかし、メイキャップで顔が分からず、セリフもほとんどないこの役を、ルゴシは蹴ってしまう。これがルゴシにとっての大誤算、そして代役のボリス・カーロフにとっての一大転機となった。公開直後からこの映画は記録的な大ヒットとなり、ベラ・ルゴシは、一夜にしてボリス・カーロフにトップスターの座を奪われたのであった。 |
第3弾「フランケンシュタイン復活」('38・米ユニヴァーサル) | 第4弾「フランケンシュタインの幽霊」('42・米ユニヴァーサル) | 「凸凹フランケンシュタインの巻」('48・米ユニヴァーサル) | ハマー第1弾「フランケンシュタインの逆襲」('57・英)C・リー最高! | 同左、別バージョンポスター。世界初のカラー版フランケンシュタイン | ハマー第2弾「フランケンシュタインの復讐」('58・英) | 「フランケンシュタインの怒り」('64・英)ハマー第3弾前作とは繋らず。 |
ハマー第4弾「フランケンシュタイン/死美人の復讐」('67・英) | ハマー第5弾「フランケンシュタイン/恐怖の生体実験」('69・英) | 「フランケンシュタインの怪獣/サンダ対ガイラ」('64)壮絶な兄弟喧嘩 | 「フランケンシュタインの逆襲」(!)('65・米アライド・アーティスツ) | 「ヤングフランケンシュタイン」('75・米フォックス)相当笑えます | 「ブライド」('84・米コロンビア)意外と拾い物っす。雰囲気もいいし。 | 「フランケンシュタイン」('94ソニーピクチャーズ)コッポラ製作。 |
ドラキュラ、狼男、ミイラ男、そしてお題のフランケンシュタイン博士の手による人造人間・・。スクリーンに登場した数々の名物モンスターのなかで、皆さんが一番怖かったのはどれだろうか。僕の一番は、ズバリ、このフランケンシュタイン・モンスターだ。西洋のホラーは、どちらかといえば無差別大量殺人が基本パターンとなる場合が多く、モンスターと被害者との人間関係は、比較的希薄である。ここが日本の因果応報、怨念無念の怪談話との決定的な相違点であり、怪談がどことなく湿っぽいのに比べ、西洋のホラーにドライな印象を受ける所以はここにある。しかし、このフランケンシュタインはどうだろうか?かなりウェットじゃないかな。継ぎはぎだらけの体に、傷害を持つ脳を移植された巨人の哀れさ。彼は、そんな姿にされた恨みを、やがてフランケンシュタイン博士の愛する人へと向ける。そして愛する人を殺された博士は復讐の鬼と化し・・。いやあ、どうですか。この怨念ドロドロのディープな怖さ!生理的になんだかいやーな気持ちになるでしょう。作者のシェリー女史に一言。「あんたも好きねえ」 僕がはじめてこの”フランケンシュタインもの”に出会ったのは、例によって、TV放映のハマー作品であった。第一作「フランケンシュタインの逆襲」と二作目の「フランケンシュタインの復讐」の二週連続放送というので観たのが、たしか小学校4、5年のころのことである。あまりの怖さに、僕らはテレビの前で凍りついた。あの期待していたボリス・カーロフ・メイクじゃなかったけれど、そんなことをがっかりしている余裕は全くなかったのであった。一作目の人造人間を演じたのは、ご存知ドラキュラのクリストファー・リー。版権の関係から、あのメイクを使えなかったハマープロが、苦肉の策で生み出した新パターンの怪物であったが、このリー版メイクも僕は好きだ。以降のフランケンシュタインものでも、怪物のメイクは、カーロフかリーかのどちらかのパターンを踏襲することになる。ちなみにこのハマープロの第1作は、世界初のカラー版フランケンシュタインとなり、同プロがホラー路線を突き進むことになる記念すべき作品となったものである。翌年に「吸血鬼ドラキュラ」を作ることになるテレンス・フィッシャー監督とピーター・カッシング、クリストファー・リーの黄金トリオは、この時誕生した。 |
どの映画でもそうですが、人造人間がいきなり狂い出すところ・・最高に怖いっす。最新作のコピーが浮かびますよ。「なぜ造った。」 | はじめて怪物に人間として接してくれたのは、幼い女の子でした。屈指の名場面。(「フランケンシュタイン」('31)より) | 一世一大のハマリ役。フランケンシュタイン博士を演じるは我らがピーター・カッシング(右)。無表情で死体の首を切り取るとこなんざぁもう・・。まさにマッドサイエンティストの鏡!(「フランケンシュタインの復讐」('58)より) |
フランケンシュタインのお話の主人公は、その題名のとおり、フランケンシュタイン博士である。しかし映画化される場合は、やはりそのインパクトから、博士の作った人造人間の方を”売り”にする場合が多い。最新作94年版のロバート・デ・ニーロをはじめ、元祖ユニバーサル版でも怪物役にトップスターを振り当てようとしたように、フランケンシュタインを演じる役者は影が(髪じゃないよ)薄かった。博士と怪物の知名度が逆転するのは、おそらくハマー版が最初だろう。このシリーズでフランケンシュタイン博士を演じたのが、ご存知同社のトップスター、我らがピーター・カッシングだ。僕はフランケンシュタインと聞くと、まず彼の顔が思い浮かぶ。ある信念のもと、迷うことなく肉体にメスを入れて切り刻むその姿は、多分自宅にも手術台があるに違いないと思わせるほど説得力に溢れている。棺おけの美しい死体に、迷うことなく木の杭を打ち込むヘルシング教授役もそうだが、「ある信念に基づいて目的を達成するために突き進む知性溢れる紳士」という役柄に、彼の魅力は最大限発揮されるようだ。 優れた原作による万人の知るスタンダードというのは、大体においてパロディにされて茶化される宿命にある。フランケンシュタインもその例に漏れることなく、パロディに溢れているが、その最高峰はメル・ブルックス監督の「ヤング・フランケンシュタイン」('75)であろう。僕はユニバーサルのオリジナルを観る前に、TV放映でこちらを先に観てしまったにも拘わらず、相当笑えた。大学生になって、”ユニバーサル創立70周年記念フィルムフェスティバル”というイベント興行で、元祖「フランケンシュタイン」と二作目「フランケンシュタインの花嫁」の2本立てを観たとき、僕は「ヤング・・」の真の面白さにあらためて気が付いた。そうか、これだったのか・・。まだ”いずれも未見”という方のために、ひとつアドバイスしておこう。「ヤング・フランケンシュタイン」は、元祖を観てから観るべし!そうでなくとも面白いこの作品が、あと10倍楽しめること請け合いです。 |
海に住む強暴な方がガイラ(左・中島春雄)、山に住む温厚な方がサンダ(右・関田裕)です。 | ちゃんと契約を結べば、このメイクが使えるってわけです。「フランケンシュタイン対バラゴン」より古畑弘二 | フランケンシュタインものに入れてもいいと思う。少なくとも←よりは。「シザーハンズ」('90・フォックス) | 恐怖の創造物を、あのメイクに頼らず復活させたのがご存知ハマープロ。演じるは我らがC・リー! | ジェニファー・ビールズとスティングの共演が話題でした。「ブライド」より |
スクリーン史上最高のドル箱スターとなったこのフランケンシュタイン・モンスターだったが、他のキャラクター同様、単独での集客能力は次第に衰え始める。このような場合、往々にしてとられる手段として、別キャラクターとの共演によるスクリーン生命の維持というのがある(そうか、ゴジラといっしょだね)。ドラキュラや狼男と幾度となく闘い、アボット、コステロとドタバタ追いかけっこを繰り広げ、果ては東洋の異国でマンガにまで登場してしまう我が子をみて、天国のシェリー女史は裏手を打ちながらこう言ったらしい。 「いいかげんに(ポン)しなさい」 |
(2002/1)