怪獣の部屋

34.怪獣体験編

どっひゃ〜、なんじゃこりゃぁ〜!恐らく初めてご覧になる方のほとんどが、このような絶叫とともに失禁にいたるというこの巨大仏。総工費80億と約5年の歳月を投じて1993年に完成した東京本願寺・牛久阿弥陀(通称牛久大仏)がこれだ。茨城県牛久市久野町に忽然と出現するその威容は、まさに究極の怪獣体験といえるでしょう。台座を含めた高さ120メートルはブロンズ像としては世界最大(ギネス公認)で、これは奈良の大仏の約8倍、ニューヨーク自由の女神の実に3倍のスケールを誇る。世界征服を企む某秘密結社の基地ではないかとの噂は、今筆者が思いついたものである。内部のエレベーター(!)で85m地点まで登ることもできるのだ。す、凄すぎる・・。
 僕の友人に、怪獣映画にエキストラ出演した輩がいる。彼の話によると、スタッフが何もない空間に向かって「○○○はあそこです、こちらに歩いてくるところです」なんて説明するそうだ。大勢の人達と虚空をみて悲鳴を上げるうちに、彼はあたかもそこに本当に大怪獣がいるかのような錯覚に襲われたという。これが怪獣体験だ。怪獣体験・・。このHPを訪れてくださる方々は、おそらく子供の頃、街並のビルの向こうからヌッと現れる怪獣の姿を幾度となく想像したことだろう。皆さん、これ、実際に体験したいと思いません?え、そんなの無理だろって?いえいえ、無理ではございません。今回はそんな怪獣体験の世界へ皆さんをお連れいたしましょう。

 ハリーハウゼンの名作「アルゴ探検隊の大冒険」の中の青銅の巨像”タロス”のくだりをご存知だろうか。ギリシャ神話に登場するタロスとは、もともとクレタ島の番人で、島に近づく者を追い払うのが仕事であった。映画の中では宝物の守護神として、宝物殿の台座の上にひざまずく姿で登場する。この姿がなんとも言えず恐い。見上げるカットも抜群の、最高の怪獣体験映像となっている。島の宝物に決して手を付けてはならないという女神ヘラの忠告を無視した勇者ヘラクレスは宝物のひとつをなんと・・持ち出してしまう!「アホかヘラクレス、思い直せ!」という僕らの叫びもむなしく、宝物殿を後にするヘラクレス。そのとき、なんと巨像タロスが、ギギギっと・・ひえ〜!。

九州も負けちゃいませんぜい。福岡県は久留米市の慈母大観音像は高さ62mの鉄筋コンクリート造り。総工費約20億、眉間の白亳には直径30cmの純金の板に3カラットのダイヤモンドが18個、胸には直径10cmの水晶(2000カラット)とその周りに、56個のヒスイが散りばめられているという宝石まみれの大観音、そして胸には13mの赤ちゃん(!)が・・。上の牛久大仏が山の中にぽつんと立っているのに比べ、こちらは街中にあるので、よりリアルな怪獣体験が楽しめます。(1982年完成) 千葉県富津市・大坪山の頂上からひっそりと東京湾を見下ろすのは全長56mの鉄筋コンクリート造の観音像・東京湾観音だ。胎内は20階、314段の階段が頭部まで続き、腕、肩、冠の位置に展望台がある。1961年、戦没者の慰霊のために建てられたものだが、何故か自殺者が続出。現在は飛び降り防止のフェンスが設置されている。また、進入路のトンネルも心霊現象の噂が絶えず、肝試しの名所と化している。 首都圏近辺の方にとって巨大観音といえばこれ。神奈川県大船市のJR大船駅の眼前にそびえるのが、通称”大船観音”(正式名白衣観音)。全高25.39m。昭和4年着工、完成を目前に大戦で工事は中断。昭和35年完成。江戸川乱歩「灰色の巨人」のモデルだす。
 このタロス、逃げるアルゴ号一行の船を先回りして岬に仁王立ちとなるその姿にはモデルがある。それは紀元前3世紀に実在した古代の七不思議のひとつ、ロードス島の青銅の巨像コロッソスであった。ロードスは紀元前4世紀からヘレニズム時代にかけて、商業・文化の両面で繁栄した古代世界でも最大級の都市国家であったが、その繁栄ゆえに周辺の大勢力の抗争に巻き込まれることも多々あった。エジプトの貿易都市アレキサンドリアとの緊密な関係から、エジプトがマケドニアと争ったとき、ロードス人はエジプトを支援する。これを根に持ったマケドニアは、後日最強の討伐軍をロードスに送り込むことになる。ロードスは熾烈な包囲攻撃に粘り強く耐え、数ヶ月にわたるろう城戦の末、エジプトの助けもあって遂に最強のマケドニア軍を撤退に追い込んだのである。このときロードス人は、マケドニア軍が残していった武器の売却収益で一大記念物の建立を思い立った。これが後世まで語り継がれることになるロードス島の巨像なのである。

 このロードス島の巨像は残念ながら現在はその片鱗すら残っていない。僕らはその在りし日の壮大な姿を想像することしかできないんだ。でも、ローマの歴史家フィロンをはじめ、多くの著述家によってかなり克明に記述されているので、その姿は割と正確に再現できる。また、絵画でもよく取り上げられるテーマで、湾をまたぐ姿が有名だ。しかしこれはやはり誇張された表現で、実際は台座のうえに普通にたたずむ姿であったらしい。像の高さは約36メートル。台座を含めて40メートル前後だったという説が有力で、これはニューヨークの”自由の女神”にほぼ匹敵する。紀元前、高層建築のまだ無い時代、古代の人々がこれを見たときの驚きとは一体どんなものだったのだろうか。今度「アルゴ探検隊の大冒険」を観る機会があったら、是非このロードス島の巨像を思い出してほしい。この怪獣体験、古代の人達も味わったんだなあってね。

こ、これは・・そう、ウルトラマン20話「恐怖のルート87」登場の高原竜ヒドラじゃないっすかあ。(伊豆高原 サボテン公園)中央は若き日の筆者っす。 1999年暮れ、横須賀は「くりはま花の国冒険ランド」に復活したニューゴジラ滑り台。なんと全高9mの全長10m!神奈川以外の方は意外とご存知ないのでは・・。行くっきゃないでしょう。 昭和33年、横須賀の観音崎・たたら浜に建造された元祖ゴジラ滑り台。昭和48年老朽化のため撤去。
 この「何かの巨大な像を造りたい」、という欲求は人類普遍のものらしい。エジプトのスフィンクスやアブ・シンベル神殿のラムセス2世像、イースター島のモアイ像、アジア全域に点在する巨大仏など例を挙げるとキリがない。そしてこの日本も例外ではなかった。いや、それどころか結構日本人ってのは好きなようですぜ。大きいの。ここに紹介した画像は、筆者がこれまでに遭遇した”怪獣体験もの”の数々である。中でも白眉は最上段の牛久(うしく)大仏。ひゃ、ひゃくにじゅうめーとるですぜい!ゴジラよりデカいんだよ。文句なしの世界一(ブロンズ像でね)ですね。真下から見上げるその角度は、まさに究極の怪獣体験といえるでしょう。僕は意識してこうした”怪獣体験もの”と遭遇するように努めているけど、偶然出会ったものも少なくない。きっと探せばまだまだいるんでしょうね。巨大オブジェ。もし皆さんのご近所にもございましたら是非一報下さい。第2弾で使わせていただきます。

 仮にあなたに無限の資金提供者が現れたとしよう。さあどうします?121メートルのゴジラ?いやガメラ?でもちょっと腰が引けるんじゃないかな。「あいつ、あんなもん造っちゃったよ○○億もかけて。ばっかみたい」なんて声を考えるとやっぱりちょっとね・・。でもホトケ様なら、あるいはカミサマ、メガミサマなら、「おお、なんかちょっとありがたいぞ、こんなにデカいと、きっとご利益もいっぱいあるにちがいない・・」なあんてことになるわけです。世界中に太古から累々と造り続けられる巨大像の数々・・。その根底に流れるものは、ズバリ、「怪獣体験したい!」だったのです。

 結論 − 人類みな怪獣好き

ごく普通の町並みに突如現れる異次元への扉・・。名古屋からは巨大マネキン通称”ナナちゃん”だあ!え、なぜナナちゃんかって?それは名鉄セブンの前に立ってるからなんだって。推定身長6メートル。 恐竜のオブジェは多々ありますが、ビル街の一角で突然これが出てきたら結構インパクトあります。新横浜のとあるカラオケ店の看板でした。イカすぜブラキオ君!(1999年撮影、残念ながら現在はもう撤去されてたようです) 愛知県犬山市の「日本モンキーパーク」は、絶叫マシーンから幼児向けアトラクションまでバランスよく配置された遊園地。岡本太郎作「若き太陽の塔」なんてのもあって家族でのんびり過ごすにはお勧め。さらにここは世界有数の猿類の動物園でもあり、そのシンボルがこの巨大ゴリラ君でした。東京ディズニーランドもいいけど、待たずに乗れるってのはいいもんですねえ。

(2001/8)