怪獣の部屋

33.続・吸血鬼編

「ノスフェラトゥ」('79・西独)不思議な映像です イザベル・アジャーニがとっても綺麗。 「吸血鬼」('67・米)ロマン・ポランスキー監督とその夫人シャロン・テート。惨劇の前でした。 「ドラキュラ都へ行く」('79・米) 「ドラキュラ」('79・米)79年ドラキュラ当り年。 「処女の生血」('74・米)A・ウォーホールっす。
 なかなかベッドインに踏み切れず、ガタガタ言う処女の女の子とつき合っているあなたに、僕がとっておきの秘策を授けよう。いざ今日こそは、と押し倒したところで「ちょっとまって」なんて言われたときには、すかさずこう言うんだ。「いや、もう待てない、これ以上君を危険にさらすことはできないんだ」「え、危険に?」「そうさ、知ってる?吸血鬼って処女しか襲わないんだ。君を吸血鬼の魔手から救うにはこうするしかないんだぁ!」これで決まり。彼女はきっとこう思うだろう。「まあ、そこまで私のことを想っていてくれたなんて。この人ならあげてもいい・・」とまあこんな具合ですな。トランシルバニアで生まれ、今アメリカ西海岸で大ブレイクの、名付けて「処女攻略必殺ヴァンパイア作戦」おためしあれ。(アホか)
宇宙からきたヴァンパイアは、血ではなくて性器じゃなくて精気を吸い取っちゃいます。 その姿はなんと・・。やっぱりコウモリでしたか。きっちりお約束は守ります、トビー・フーパー。 宇宙の美女ヴァンパイアはマルチダ・メイ。全編スッポンポンOK! 小林夕岐子。このスチールでその怖さが十二分に伝わることと思います。血を吸う人形とはまさに!
 吸血鬼を表す英語はヴァンパイア(Vampire)である。ドラキュラというのは個人名であってイコール吸血鬼という訳ではもちろんないのだが、吸血鬼ではない普通の人間であるドラキュラって方は存在するのでしょうか。もしいたらかわいそうですよね。きっと小さい頃いじめられているはずです。でもちょっと憧れます。だってカッコイイと思いません?自己紹介で「こんにちは、私はドラキュラです」なんてやっちゃうんですからね。フランケンシュタインもしかり。モテモテ間違いなしですな。いじめられてる幼いドラキュラ君、頑張れ!未来はバラ色だ。

 吸血鬼とはそもそもヨーロッパはトランシルバニア地方で古くから伝わる民話・伝承である。吸血鬼小説の最初のベストセラーは、セリダン・レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」(1872年)であった。これを題材にした映画も多いので、結構ご存じの方もいらっしゃるかもしれない。しかし、吸血鬼を世界的に有名にしたのはやはりこれ、アイルランドの作家ブラム・ストーカーによる小説「吸血鬼ドラキュラ」(1897年)である。小説のなかのドラキュラ伯爵は、トランシルバニアの”とある城主”となっているが、このドラキュラ伯爵にはモデルがいる。15世紀に実在したトランシルバニアの東方に位置する小国・ワラキア公国の領主ヴラド・セペシュ公である。彼は敵国の兵士を串刺しにして村の沿道に累々と並べたことから、串刺し(セペシュ)公の異名をとるが、この暴君ぶりは、実はその父ヴラド二世から引き継いだものである。ヴラド二世はその暴虐ぶりを怖れた民衆から竜と悪魔の両方を意味する「ドラクル」(Dracul)という異名で呼ばれていた。そして、その息子セペシュ公に与えられた称号こそが、ドラクルの息子を意味する「ドラクラ(Dracula)」だったのである。

 吸血鬼の毒牙にかかった者が次々と吸血鬼に変わっていくという恐怖は、後のゾンビものや「地球最後の男」などのSFの重要な基本設定となっている。この吸血鬼の”伝染”による恐怖は、もともと吸血鬼伝説が、中世ヨーロッパを震撼させたペストの恐怖に由来していることを考えると、至極納得のいくものである。ペスト・・14世紀にヨーロッパで猛威を振るい、その人口の約三分の一を死にいたらしめたというこの疫病は、日本でも明治半ばに流行している。日本では、死の間際に体が黒くなることから、黒死病と呼ばれ、怖れられたという。ちなみに、かの予言者ノストラダムスはペストの流行の際、ヨーロッパでは一般的だった土葬をやめて火葬を広め、その伝染の抑制に貢献したという話が残っている。自分の身近な人間が突然豹変する恐怖、そして被害者だと思っていた愛する人が突如加害者になるという悲しみ・・。吸血鬼伝説の根底には、ちょっぴり悲しい歴史背景があったんだね。

「女吸血鬼」(新東宝'59)天知茂! 「花嫁吸血魔」(新東宝'60)池内淳子!! 「怪談生娘吸血魔」('60・米)大蔵映画配給 「血を吸う人形」('70・東宝)小林夕岐子 「血を吸う眼」('71・東宝)岸田森 「血を吸う薔薇」('74・東宝)再び岸田森 「噛みつきたい」('90・東宝)我慢しなさい
「吸血ゾンビ」('66・英ハマー)血は吸いません。 「オカルトポルノ/吸血女地獄」('73・典/西独) 「スペースバンパイア」 ('85・米)しょうもないけど好きです。 「フライトナイト」('85・米)モダンヴァンパイアの先駆。 「バンパイア最後の晩餐」('88・伊)十字架効きません 「ドラキュラ」('92・米)F・F・コッポラ監督でしたねえ 「インタビュー・ウィズ・バンパイア」('94・米)邦題イマイチ。
 吸血鬼のイメージは、日本では完全な輸入物である。中国にはキョンシーっていうそのものズバリのゾンビ伝説があるが、日本には渡ってこなかった。日本に初めて「吸血鬼」という言葉が登場するのは、(諸説あるが)大正の末期あたりというのがカタい線らしい。ちなみに江戸川乱歩の小説「吸血鬼」の連載開始は、昭和五年である。(念のため言っておくけど、この小説は内容自体は純粋な探偵小説で、ホラーじゃないよ。)映画や翻訳小説で徐々に我が国でもそのイメージが浸透してきたヴァンパイアであるが、国産初の吸血鬼の登場は更に四半世紀余りを待たなければならない。さて、その記念すべき和製吸血鬼第一号を演じた俳優を皆さんはご存知だろうか。僕の知る限り、多分この人である。その名は・・”天知茂”!

 男は誰でも背伸びして大人ぶる時期がある。もちろんそのお手本は映画やTVで観た俳優だ。日活系を目指してクールなタフガイを狙う奴。東宝ニューフェイス系のダンディ2枚目半を狙う奴。東映極道系の渋め路線を狙う奴。と、ひとそれぞれだが、僕が目指したのは大映あるいは新東宝系であった。そして狙った路線は・・そう、「ニヒル」である。(ヒル二匹じゃないよ) ニヒル・・僕はこの言葉に痺れた。ニヒルな男は歯をみせて笑っちゃあいけない。どんなにおかしい時でも、まずたばこに火を付けて、ワンテンポ置いてから口元をちょっと吊り上げて、ニヤっとやるんだ。「まあニヒルなお方」「○○さんてニヒルねえ」こんなふうに言われたい!そういうわけで僕がお手本に選んだのが日本で最もニヒルなこの男、天知茂だったのである。天知茂と聞いて、皆さんはどの役を思い浮かべるだろうか。土曜ワイド劇場の「江戸川乱歩の美女シリーズ」の明智探偵?、「非情のライセンス」の会田刑事?。

日本一ニヒルなこの人が演じた吸血鬼の正体は、なんと天草四郎でした。 いい構図ですねえ。がっくりと首元あらわになった美女!お約束でございます。 すごい顔になっちゃいました天知茂。右は三原ナイスバディ葉子!
 天知茂は、1951年新東宝のニューフェイスとして入社後、宇津井健らとともに同社の看板スターとして数多くの作品に主演することになる。しかし、役者として絶頂期を迎えようとしていたところで、新東宝は倒産、彼は活躍の場を大映京都に移すも、主役を張るには至らなかった。70年代には次第にTVにも登場するようになり、やがて僕らの前にその強烈な個性を現すことになるのである。個人的には大映京都時代の「眠狂四郎無頼剣」('66)の市川雷蔵の敵役(なんと同じ円月殺法どうしの対決!)あたりが最も好きなのだが、新東宝時代には、こうした陰のあるニヒルな役以外にも、「女吸血鬼」('59)のヴァンパイアをはじめ、結構幅広くいろんな役を演じていた。(ちなみに、特撮とは無縁のような彼だが、「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」(’56・国光映画)なんてのにも出てます)そして彼はその全てに全力投球でぶつかっていたのであった。

 ニヒルな男といえば、天知茂以外にも、先の眠狂四郎こと市川雷蔵、悪名シリーズや黒のシリーズの田宮二郎なんかを思い浮かべる方が多いだろう。彼らの名前を聞いて、ひとつあることにお気づきになったのではないだろうか。そう、彼らは自身が演じた”長生きできそうにない”役柄を地でいくように、市川雷蔵38歳を筆頭に、いずれも若くしてこの世を去っているのである。なぜか・・。僕はこう思うんだ。たとえば常に全ての仕事を完璧にこなそうと、100%の能力を発揮し続ける、眉間にしわをよせ、いつも真剣勝負で・・。これは疲れる。でもニヒルってそういうことなんだ。形だけ真似してみても、内側からにじみ出てくる色気ってのは、決して真似できない。その真剣勝負の生き方そのものがニヒルってことなんだ。「ニヒルは早死にする・・」これは、つまり・・、そう、”宿命”だったのです。

日本のヴァンパイアといえばこの人岸田森!「血を吸う・・」2本で決まりです。 お、結構いい感じじゃないですか。観てないけど。「噛みつきたい」より緒方拳。 邦画とは思えないこの絵柄。まさに欧州のゴシックホラーの雰囲気です。さすが日本のテレンス・フィッシャー山本迪夫!左が小林夕岐子です。「血を吸う人形」より この人もやっちゃいました。岡田真澄。「吸血鬼ドラキュラ神戸に現わる」('79・テレビ朝日)

(2001/6)