怪獣の部屋
32.吸血鬼編
「吸血鬼ノスフェラトゥ」('22・独)ドラキュラ映画の元祖はドイツでした。 | 「魔人ドラキュラ」('31・米)ユニヴァーサルが放ったドラキュラ映画のスタンダード。今観るとちょっと退屈かもね。BGM無いし。 | 同左 ドラキュラを演じたベラ・ルゴシはこれで一躍有名スターに。やっぱり絵になりますよねえ。 | ハマープロの記念すべき吸血鬼第1作「吸血鬼ドラキュラ」('58) | ドラキュラのモデル15世紀ワラキア公国ヴラド・セペシュ公 |
先日僕はヴァンパイアに追いかけられる恐ろしい夢を見た。必死に逃げようと全力で走るのだが思うように足が動かない。もうだめだ、というときに目が覚めた。その日僕はなぜか不吉な予感に包まれていた。夢は何かの暗示だ。きっと恐ろしいことが起きるに違いない。気をつけなければ・・。「ねえねえ、ここプリクラのシール貼っていい〜?」「いや」「じゃあ窓は?」「窓もいや」「ボンネットもいや?」「ボンネットもいや」「バンパーいや?」「バンパーいや・・あ」(バンパーいや・バンパーイヤ・・ヴァンパイア・・こ、これだったのか・・)そして不吉な一日は終わった。(駄洒落かい!) |
ハマー第2弾「吸血鬼ドラキュラの花嫁」('60) | ハマー第3弾「凶人ドラキュラ」('65) リー復活! | ハマー第4弾「帰ってきたドラキュラ」('68)帰ってきたかぁ | ハマー第5弾「ドラキュラ血の味」('69)ってどんな味 | ハマー第7弾「ドラキュラ'72」('71)1年ズれとるぞ | ハマー第8弾「新ドラキュラ悪魔の儀式」('72) | ハマーのカーミラ物「ドラキュラ血のしたたり」('71) |
「吸血鬼サーカス団」('70)ハマー十八番エロ爆発! | 「ドラゴンVS7人の吸血鬼」('74)僕は好きです。 | 「吸血鬼の接吻」(ハマー'64)接吻はよしてちょ | 「ドラキュラとせむし女」('45・米)せむし女、美人です。 | 「生血を吸う女」('60・伊)いやな女ですねえ。 | 「生きていた吸血鬼」('58・英)あらら、生きてました。 | 「血とバラ」('60・仏)レズ系お好きな方はどうぞ。 |
僕がはじめて観た吸血鬼映画は、ハマープロの「ドラキュラ復活血のエクソシズム」('70/劇場未公開)だった。小学校2年生の夏休みのことである。今の若い方たちにはちょっと刺激が足りないかもしれないが、ドラキュラと四谷怪談は、当時の僕たちの、夏休みのお楽しみだったんだ。ロープを伝わってしか出入りできない城の絶壁の隠し部屋のサスペンス。露出度の異常に高いドレスをまとった女優陣。当時としてはかなりショッキングだった血しぶき度。そしてなんと言ってもクリストファー・リーのドラキュラ。これで僕はハマった。怖いけどカッコイイ!凄い魔力と思わぬ弱点を合わせ持つドラキュラ。そして、こいつを如何にして倒すかの息詰まる攻防。ね、どことなく怪獣映画に通じるものがあるでしょう。ちなみにこの作品は、ハマープロのドラキュラシリーズの6作目にあたり、残念なことにヘルシング教授は出てこない。そしてなぜかシリーズの中で唯一劇場公開されなかった作品にもかかわらず、出来はかなりのグレードである。 このあと、僕は”ドラキュラ”と名の付く吸血鬼映画のオンエアに胸躍らせるようになっていく。もちろん夜トイレに行けなくなるのを覚悟して・・。中には「ドラキュラ対フランケンシュタイン」('71・米)なんてブっ飛ぶのもあったけど、基本的にはすべて許してしまう。それくらい魅力的なキャラクターなんだ、ドラキュラってのはね。ドラキュラ映画についてそれほど詳しくないという方には、とりあえずハマープロの第1作「吸血鬼ドラキュラ」('58)をお奨めしておこう。これは原作にほぼ忠実な映画化で、ここに後のドラキュラ映画の重要なエッセンスは全て詰めこまれているといっても過言ではない。つまり、ブラム・ストーカーの原作「吸血鬼ドラキュラ」こそが吸血鬼映画の魅力の原点であり、それは原作の時点で既に完成されているんだ。オールドファンの方にはユニヴァーサルの「魔人ドラキュラ」('31)を忘れてるよ・・なんてご指摘を頂くかもしれないが、さすがにこれは、もう今の若い方たちにはお奨めできない。トーキー初期の作品のためか、セリフ以外のBGMは一切なく、かなり退屈だ。でも、ベラ・ルゴシのあの手の動きを見る価値だけはあるけどね。 |
「凸凹フランケンシュタインの巻」('48)よりツーショット。ユニヴァーサルのドル箱スターたちでした。 | 「バンパイア・ラヴァーズ」(ハマー'70)の女吸血鬼イングリット・ピット | ドラキュラに敢然と立ち向かうのはご存知ヘルシング教授(ピーター・カシング)英国紳士です。 | ドラキュラといえばこの人クリストファー・リー。迫力ですねえ。 |
ドラキュラ映画の醍醐味は、なんといってもその”倒し方”にある。ドラキュラを倒すには、”心臓に木の杭を打込む”、あるいは”太陽の光を浴びせる”などがオーソドックスな方法であるが、それ以外にも”十字架の影を重ねる”、”氷付けにする”、”落雷にあたる”なんてイレギュラーもある。(どの映画か分かります?)古典的なドラキュラ映画には、他にもいくつかの”お約束”がある。まず、ヘルシング教授以外の登場人物は、これらの吸血鬼の弱点を全く知らない。いや、それどころかドラキュラ伯爵が吸血鬼であることすら知らないのである。そうでないと「ドラキュラです」っていうあの登場シーンの自己紹介ができないでしょ。もうひとつ笑える弱点に、”吸血鬼は初めて訪れる家には、その家人が招き入れるまでは中に入れない”、というのがある。なんだか訪問セールスマンみたいでちょっと憐れですねえ。 ドラキュラの宿敵ヘルシング教授といえば、誰もがハマー作品のこの人を思い浮かべることだろう。そう、30代にして既に老紳士の風格漂う英国の笠智衆、名優ピーター・カッシングだ。しかしピーター・カッシング対クリストファー・リーの黄金対決というのは、実はシリーズ中3本と意外と少ない。どちらか片方は必ず出てるんだけどね。ドラキュラを怖れることなく敢然と立ち向かうそのヘルシング教授の姿に、僕らは何度ホッとさせられたことか。この邪悪な存在に立ち向かうヒーロー像は、後の「エクソシスト」の神父像へと引き継がれていくことになる(ホントかぁ)。ピーター・カッシングは、ハマープロの看板役者として、フランケンシュタイン男爵をはじめ、このヴァン・ヘルシング教授、シャーロック・ホームズ卿などでおなじみだが、最近では「スターウォーズ」('77)の冷酷な悪役、モフ・ターキン総督役などが記憶に新しい。平田昭彦同様、ファンタジー映画の出演をこよなく愛した彼であったが、1994年8月11日、81歳で惜しくもこの世を去ってしまった。最後に彼を倒したのは、吸血鬼ではなく癌であった。 ハマープロの屋台骨を支えたこのドラキュラシリーズだったが、ハマーは74年のシリーズ番外編(9作目?)「ドラゴンVS7人の吸血鬼」というマニア大うけの、一般にはズッコケ作を世に問うた後(問うな!)、一気に衰退の一途をたどり、1979年にはついに債権者の手に渡ることとなる。50年代後半から70年代前半のわずか20年足らずの繁栄ではあったが、同プロダクションが映画界に残した功績を、僕らは決して忘れてはいけない。今でこそ、ホラーはガキの観るものって相場が決まっちまったけど、それはきっとハマーホラーの衰退と無関係ではないはずだ。だって、アイスホッケーのお面付けた不死身野郎や、チェーンソー振り回して追っかけてくる変質者も確かに怖いけど、ただそれだけだもんね。決定的に不足してるもの・・、それは”ロマン”です。(決まった) |
’79版「ノスフェラトゥ」のクラウス・キンスキー。不気味です。 | ’79版「ドラキュラ」で伯爵を演じたフランク・ランジェラ | 「ドラキュラ都へ行く」('79)のジョージ・ハミルトン | 「フライトナイト」('85・米)の吸血鬼はこの人クリス・サランドン | 同左。ドラキュラ・ハンターでいい味だしてたロディ・マクドウォール |
後日、僕はまたしてもヴァンパイアに追いかけられる恐ろしい夢を見た。必死に逃げようと全力で走るのだが思うように足が動かない。もうだめだ、というときに目が覚めた。この日も僕はなぜか不吉な予感に包まれていた。夢は何かの暗示だ。きっと恐ろしいことが起きるに違いない。気をつけなければ・・。「この女の人誰?」「この人は前田通子っていって新東宝の女優さん。日本初のオールヌードで有名な人だよ。ヴァンプ(妖婦)女優のはしりだね」「ふーん。なんか色っぽいよねえ。あんたこんな人好みでしょう」「いやあ、ヴァンプはいいや、君だけで・・あ」(ヴァンプはいいや、ヴァンプワイイヤ、ヴァンプワイヤ、ヴァンパイア・・ちょっと苦しいけど、こ、これだったのか・・)そして不吉な一日は終わった。(もうええちゅうに) |
(2001/5)