怪獣の部屋

28.特撮ビューティーズ編

う、美しい。宝塚のトップスターだったこの人は・・ 八千草薫。永遠の乙女です。 「ガス人間第1号」(’60)土屋嘉男が惚れるのも無理ないよ。 「宮本武蔵」のお通(’54)これで僕は参りました。主演三船敏郎
 「やっぱ松田聖子やね」「いや、石野真子が一番、絶対」「おまえらには薬師丸ひろ子のよさがわからんのかぁ」「ばかたれぇ、石川秀美にきまっとろうがあ」「ふふふ、菊池桃子ちゃんをわすれちゃあいませんかい」「俺ブルック・シールズが好き」ワイワイ。僕が中学生だったころの昭和50年代半ば、ニキビ野郎どもはだいたいこのような会話で盛り上がっていた。僕も例に漏れず、カードケースの下敷きに”ジョディ・フォスター”と”トレーシー・ハイド”の写真を入れて喜んでた。「ところでT君は誰が好きなん?」アイドル話に全く参加しないT君に友人のひとりが聞いたとき、彼はちょっと恥ずかしそうに、でも迷うことなくこう答えたんだ。「俺、吉永小百合」

 「なんじゃそりゃ」「おまえ、おばちゃん好みやな」T君はさんざん笑われて「へへ・・」と照れてた。でも僕は笑わなかった。しまった、やられたって感じだったんだ。たしかに吉永小百合の若い頃って、とてつもなくかわいい。僕も前から、TVでみた日活の映画でチェックしてた。うん、最近のアイドルなんて足元にも及ばない。でも僕にはみんなの前で「吉永小百合がいい!」と宣言する勇気がなかったんだ。僕は大事な宝物をひとつT君にとられたような気がして、ちょっと悔しかった。T君恐るべし。僕はこの件以来、自分に正直に生きることを誓った。そうだ。僕のアイドルは、あの時観た銀幕のなかにいる!。

グレン、私の中に計算外の感情が・・。 うおおおおおおおおおおおおおお!「妖星ゴラス」より 「フランケンシュタイン対バラゴン」より。久美ねえさんピンチ! ぽっちゃりとした唇がたまりません。
 特撮映画のヒロインたちは、非日常的な空間に存在することによって、僕たちにいっそう強烈な印象を残してしまった。”八千草薫”、”水野久美”、”白川由美”。僕はこの3人を”東宝ビューティーズ”と呼びたい。現在でもお母さん役、お婆さん役で活躍する、バリバリの現役女優の彼女たち。だが、その若かりし頃の美貌は、ただごとではない。彼女たちの全盛時代を知らない方は不幸です。まずその中でもダントツは、「ガス人間第1号」の八千草薫。これほど上品にお歳をとられた方を、僕は他に知らない。のちに彼女が宝塚のトップスターだったことを知り、その頃のスチールを入手したとき、僕は思わずこうつぶやいたね。「め、女神さま・・」

 怪獣ファンに絶大な人気を誇る水野久美。彼女は日本よりもむしろ海外での人気が高く、米ファンサイトなんてものまで存在する。”KUMI MIZUNO”で検索かけてごらんなさい。あまりの凄さに一瞬我が目を疑うことでしょう。彼女の魅力が最も堪能できるのは、「フランケンシュタイン対バラゴン」と「サンダ対ガイラ」の白衣姿だ。毅然としたスタイルの中に垣間見えるわずかなスキ、そして本人ですら気付いてないであろう一瞬の表情の中に見えるエロティシズム。久美ねえさんを欧米ファンだけのものにしとく手はありませんぜえ。共演のニック・アダムスやラス・タンブリンに結婚を迫られた、という噂も案外本当かもしれませんねえ。

 白川由美は、若い方には”二谷友里恵のお母さん”と言ったほうがピンとくるかな。彼女もまた初期の東宝特撮映画に花を添えた美女のひとりである。なにしろ題名で「美女と液体人間」って断言してんだから間違いない。どの作品にも、必ず彼女のお色気シーンといったようなものが用意されていて、子供たちをドキッとさせたものだ。抜群のスタイルと露出度の高さでは、彼女がやはりダントツでしょう。多分彼女ならハマープロでも通用します。ああ、由美ねえさんも、今ではもうおばあちゃんなんですねえ。

うおおおおおお!「地球防衛軍」より白川由美 郷ひろみの義母になるとはねえ。「美女と液体人間」より ぬおおおおおおおおおお!「妖星ゴラス」より。向こう側は水野久美。
 平田昭彦は、登場した瞬間に役柄がばれてしまうという珍しい俳優のひとりだ。この人は誰がなんと言おうと博士(!)。ゴジラの芹沢博士やウルトラマンの岩本博士をはじめ、彼の演じた博士は、数知れない。もちろん博士以外にも、強烈な役はいくつかある。中でもレインボーマンの”ミスターK”。人は死ぬ間際に、一生の出来事が走馬灯のように思い出されるという。僕はこのとき、”死ね死ね団のテーマ”をバックに不気味な笑みをたたえるミスターKの顔が浮かぶんじゃないかと、今から気が気じゃないんだ。怪獣映画や特撮ものでキャラクターを演じることを、心から楽しんだ平田昭彦。しかし、彼が最も待ち望んだ1984年の”復活ゴジラ”に、その姿はなかった。残念ながら、彼はこのクランク・インの直前にこの世を去ってしまってたんだ。

 その夫の無念を晴らすべく、次作「ゴジラVSビオランテ」にゲスト出演を果たしたのが、妻・久我美子である。彼女は怪獣とは全く無縁の正統派美人女優。よく知らないという方には、「ゼロの焦点」(’61松竹)をおすすめしよう。この中で久我美子は、自殺で片付けられた夫の死の謎を追う悲劇のヒロインを演じる。ラストのどんでん返しも素晴らしいが、単身犯人を追い詰めるときの彼女の美しさは、これまたものすごい。夫の無念を晴らすその気迫と愛の深さに、僕は「ゴジラVSビオランテ」の彼女の姿が重なってしまった。平田昭彦もこれで安心して成仏なさったことでしょう。

怪獣を心から愛した平田昭彦。「さよならジュピター」が遺作となりましたが、彼の意志は奥様(久我美子)が受け継ぎます。 気品溢れる久我美子。ご主人の意志を継いで、ゴジラの女性閣僚役で久々の映画出演をはたします。 こおらあ!池部良、貴様なにをしとるんじゃああああああ!李香蘭(山口淑子)主演「白夫人の妖恋」より。 ミス日本山本富士子と特撮?あるんです。大映スペクタクル「釈迦」でお姫様やってます。写真は「金色夜叉」(’54)左は根上淳、ご存知伊吹隊長ですね。ちなみに彼の奥様はペギー葉山。
 かつて、日本映画の黄金時代があった。たとえ怪獣映画であろうと、映画人たちは決して手を抜かなかった。持ちうるすべての技術と情熱を注ぎ込み、一流の俳優を投入し、女優たちをいかに美しく見せるかに命をかけた。だからこそ、スクリーンから溢れ出る彼女たちの輝きは、今でも僕をくらくらさせるんだ。映画からスターが生まれることのなくなった今、彼女たちはよりいっそう輝いているように見える。そうだ、まさに夜空にきらめく星たちのように。

 僕のアイドルは、あの時観た銀幕の中にこそ、いた。

「大魔神」「妖怪百物語」の高田美和は往年の大スター高田浩吉のお嬢様。誰がこのとき後の軽井沢夫人を想像したでしょう。 映画の中ではよくわからないけどムー皇帝小林哲子ってナイスバディ。その谷間で窒息させて! 大怪獣ガメラのお姉さん役は大映のホープ姿美千子。現在は巨人の倉田元選手夫人。 日本を代表する国際女優、京マチ子。大映特撮スペクタクル「釈迦」に出てます。和製グラマー第1号。 山本陽子。小料理屋でこんな人から「おビールでいいかしら」なんて言われてみたいよう。
 べらぼうなお金を払って女性に隣に座ってもらう店で、会話が途切れたとき、こんなことを聞く女性がいる。「○○さんは、どんな女の人が好みなの?」きたきたきたあ!僕はこう答えることにしてるんだ。

 「X星人」

 どうだT君参ったかい。

(2000/10)