怪獣の部屋

27.ガッパ編

 ”火を吹く島か〜空飛ぶ岩か〜、宇宙の神秘〜怪獣ガ〜ぁッパー・・♪”美樹克彦のこぶしがうなる名主題歌で幕を開けるこの「大巨獣ガッパ」、言わずと知れた唯一日活が放った怪獣映画だ。企画自体は、松竹の「宇宙大怪獣ギララ」より先だったけど、公開では”ギララ”に約一ヶ月の遅れをとり、1967年4月22日に公開されている。GW公開ってやつだね。大手5社の最後を飾ったこの”ガッパ”、怪獣ブームに殴り込みをかけた日活の渾身の一作であったが、いざ蓋を開けてみると、そこそこのヒットはしたものの、評判はあまり芳しいものではなかった。この結果、日活はこれ1本で特撮から撤退することになる。しかし、当時の評価は、はたして正しかったんだろうか。

 ガッパとウルトラマンはかなり濃い血縁関係にある、というのをご存知でしょうか。昭和41年当時、円谷プロでは、好調なウルトラQの後企画についての検討がいくつかなされている。そのなかのひとつに「科学特捜隊ベムラー」というのがあった。これは宇宙からの侵略などに対する、パリに本部を持つ防衛組織、”科学特捜隊”の活躍を描く物語で、これはそのまま「ウルトラマン」の基本設定へと受け継がれる。この科学特捜隊が窮地に陥ったとき救援に現れる謎の怪獣ベムラー、そのデザインは知る人ぞ知る”渡辺明”の手によるものであるが、そのスケッチ画を見て欲しい。(最下右)あれれ、まるっきりガッパだよ。

 ベムラーのデザインは、仏教の八部衆の一つ迦桜羅(カルラ)、すなわちインドの神話に登場する鳥類の王ガルーダがベースになっている。左下の像を見て欲しい。ね、こいつもガッパだよ。こうして生まれたベムラーは、具現化されることはなかったものの、一方ではその仏教的な側面を昇華させてウルトラマンに、また、一方ではその生物的な部分を強調されてガッパにと完成される。って難しいこと書いちゃったけど「渡辺明が同じデザイン使いまわしただけなんじゃねえか」っていう声も聞こえます。うん。そういう言い方もある。まあ、なにはともあれ、ガッパはこうしてこの世に生をうけた。

興福寺の迦桜羅(カルラ)像 B2判ポスター 宣材「日活映画」の紹介ページより コミカライズは「はだしのゲン」の中沢啓治だ
 ”渡辺明”ってだれ?っていう人のために、もう少し説明を加えましょう。このひとは、東宝で、円谷英二の片腕として、「ハワイ・マレー沖海戦」(1942)から「怪獣大戦争」(1965)までのほとんどの作品で特撮美術監督を務めた特撮界の重鎮なんだ。彼なくしては、東宝の特撮黄金時代はなかったといっても過言ではない。その彼が東宝を離れて初めて手がけた作品が、この”ガッパ”だ。ガッパでは企画原案から特技監督までの全てをこなし、見事な特撮映像を作り出している。そのミニチュアワークと合成技術は、東宝作品と比べても決して見劣りするものではない。日活は凄い人を引っ張ってきてたんだ。

 技術スタッフはオッケイ。キャストも青春スターをずらりと並べたし、予算だって破格だ。さあこれで傑作にならないはずがない!って訳だったンだね。でも、世の中計算どおりにはいかないものです。このガッパ、いったいどこがいけなかったのか。これを解明するには、筆者がTVではじめてこれを観た、小学校低学年にまでさかのぼる必要がある。僕は幼い頃、TVや映画を見ながら、よく両親にこんな質問をしてた。「ねえ、どっちが悪者?」「この怪獣はいい者?」。子供はいつも物語の登場人物の誰かに感情移入するものだ。大抵は正義の主人公にってのが普通だが、中には悪者じゃないとダメとか、縛り上げられたヒロインじゃないとダメとかいうマニアックな方もいるようです。ところがこのガッパには、決定的な正義漢も憎むべき悪人も出てこなかった。「悪者はどっち?」「この怪獣はいい奴?それとも悪い奴?」。僕らは、ついに誰にも感情移入出来ないまま、”終”の文字をむかえてしまう。強烈な主題歌の余韻だけを残して。

 つまりこうだ。当時の評価は半分は正しいが、半分は外れてる。この「大巨獣ガッパ」、少し成長して改めて見なおすとなかなかの傑作だ。怪獣親子の情愛ってのも、歳をとれば照れずにみられるし、主人公達の感情の揺れも丁寧に描かれていて、ドラマとしての質も高い。でも当時の子供達には受け入れられなかった。東宝や大映が子供のニーズに合わせて、怪獣のヒーロー化と対決路線を繰り広げているのに対して、ガッパの作り方はあまりにもオーソドックス過ぎたんだ。良く言えば子供に媚びてない、悪く言えば時代に乗り切れない、といったところが、ガッパの傑作たるところであり、また、失敗の原因でもあったんだね。

 真っ赤に燃えた〜太陽うけて〜、仲良く親子〜故郷にか〜える〜♪ このストレートな歌詞!青春映画の日活らしい直球勝負は、勝ち負けに関係無くさわやかだった、ということにしておきましょう。

見事な合成による、河口湖の津波のシーン。日活恐るべし!

熱海上陸の名シーン。こういったパニック描写こそ怪獣映画の醍醐味です。

渡辺明デザインのベムラー

 ところでガッパのあの翼、生物学的にはとても飛べそうにない代物だけど、どっこいそのスピードはマッハ6!え、なぜそんなに速く飛べるのかって?そりゃあなんてったって名前がガッパだけに、空を飛ぶのは屁の河童・・・・・・・・えー、おあとがよろしいようで。

(2000/9)