怪獣の部屋

25.ギララ編

1967/3 ブームの中、松竹もついに重い腰を上げた。ギララは宇宙大怪獣なり。

元祖美人姉妹、倍賞千恵子&美津子。倍賞千恵子とギララの深いつながりを知る人は少ない。

一般公募で”ギララ”のネーミングで当選した長谷川智子さん(当時小6)

1990/4 監督実相寺昭雄、脚本佐々木守で、なぜか松竹が放った”Q”

 筆者が”宇宙大怪獣ギララ”を初めて観たのは、大学生になってからだった。近所の貸しビデオ屋でなんとなく見つけた”ギララ”を汚いアパートでひとりボーっと観ながら、僕ははたと思い出したんだ。ギララよ、君に会うのはこれがはじめてじゃないぞ。 

 「宇宙大怪獣ギララ」は、ご存知のとおり松竹唯一の怪獣映画です。松竹と聞けば世界の小津安二郎、大島渚をはじめとする松竹ヌーベルバーグの旗手たち、野村芳太郎の松本清張シリーズ、フランキー堺やハナ肇の人情喜劇、そしてなんといっても山田洋二の”寅さん”を誰もが思い浮かべることでしょう。オープニングの富士山のバックは、やっぱり”ちゃーん、ちゃらららららららら〜”ってあの”男はつらいよ”のテーマがいちばんぴったりきます。怪獣とは無縁のはずの文芸松竹がいったいなぜ・・。答えは簡単。「ブームだったから」なのです。

 1966年、怪獣ブームが加熱し続ける真っ只中、独自の青春&アクション路線で好調の日活が、突如怪獣映画の製作発表を行う。「大巨獣ガッパ」(1967/4)だ。これでたぶん松竹も焦ったんだ。大手5社中3社までもが怪獣で稼ぎまくってる。日活だけは裏切らないだろうと思ってたらこの有様だ。このブームに乗り遅れちゃあまずい!やるなら今だ!ってな具合で、とうとう松竹も重い腰をあげた。しかし怪獣は初めてとはいっても、そこは老舗、適度な話題作りと他社とはちょいと違う宇宙SFってな趣で、うまくまとめたのはさすがです。ただ難点は、肝心の特撮がイマイチってとこか。監督の二本松嘉瑞は、本場ハリウッドで合成技術を学んだらしいんだけど、やはり歴史のある東宝や大映と比べるとその差は歴然であった。

 特撮マニアの間では、仮面ライダーに改造される前の本郷猛こと藤岡弘がちょい役で出てるってことでのみ、よく話題にされるこの”ギララ”だけど、僕はそんなことより、主題歌の「ギララのロック」(!)、歌うは倍賞千恵子(!)とボニージャックスってえほうが痺れます。けど笑っちゃあいけねえよ。いいんだ、この「ギララのロック」が。ほんっとに。ただ難点は、ロックの名がつくにも拘わらず、全然ロックではない(!)ってとこか。他にも、監修に光瀬 龍(SF作家だよ)をむかえてたってのも、気合の入れようが窺えてグッド。

1933/10 「和製キングコング」戦前です。昭和8年だからお父さんもまだ生まれてないよね。 (同左)人情ドタバタ喜劇である本作は、なんとキングコング公開後、わずか一月で作られた。 B2版ポスター B2版渡辺製菓タイアップポスター
 倍賞千恵子とギララの因縁は、主題歌を歌ったというだけでは終わらなかった。17年後、彼女はなんと”ギララ”と共演することになるんだ。その映画とは、寅さんの第34作「男はつらいよ・寅次郎真実一路」(1984/12)です。”男はつらいよ”のオープニングは、必ず寅さんのみる夢のシーンから始まるというのは、皆さんもご存知のことでしょう。ハードボイルド風あり、時代劇あり、西部劇あり、と、毎回何が起こるか楽しみなこの夢のシーンですが、ギララはこの夢の中に登場したのでした。(とっといたんだね、着ぐるみ。)

 僕はこの”・・真実一路”を劇場で観ている。1984年といえば18歳、高校3年生♪〜の受験生であったにもかかわらず、僕は正月のんきに寅さんを観てた。(筆者は当時”寅さんファン倶楽部”の会員だったのであります。渋いっしょ。)そこで出会ったこの怪獣、映画の中では”大怪獣”と呼ばれるだけだったので、この時はまだこいつと”ギララ”という固有名詞は一致してないんだ。そしてその数年後、ビデオ屋の片隅で発見した「宇宙大怪獣ギララ」によって、すべての謎は解けた。幼い頃の記憶の片隅に引っ掛かってた、怪獣図鑑だか雑誌だかで見たギララのイラスト、寅さんに出た変な怪獣、松竹・・。そうか。そうだったのか。

 この文章を書くにあたって、もう一度”ギララ”を観ようと、かなりの貸しビデオ屋をまわったんだけど、な、ない!少なくとも大手チェーン店にはないようです。個人経営の小さな店でやっと見つけたものの、ギララをとりまく環境は、非常に厳しいといえるでしょう。松竹さん、出しましょうDVDを!少なくとも僕は買います。いいっすよギララ。オープニングの”ギララのロック”を聞いた瞬間、誰もが子供に戻れます。ああ、そういえば子供の頃に夢見た未来とか宇宙ってこんなだったなあってね。ただし、金髪美人科学者リーザが壊れた建物から脱出するところで、太ももからのぞくストッキングがセパレートであることに気付いた瞬間だけ、誰もが大人に戻ります。

松竹モダンホラー第1弾(1968/8) この顔はただごとではない! これも怖いぜ第2弾(1968/11) 珍しい和製動物パニックSF(1968/11)

(2000/8)