怪獣の部屋

1.キングギドラ編

 ご存知”宮崎駿”の出世作「風の谷のナウシカ」の中で、巨身兵が、迫り来るオームの群れに一発ぶっ放す衝撃的なスペクタクルシーンがある。これを最初に観たとき、僕は軽いデジャ・ビュに襲われた。昔、これと同じ気分を味わったことがあるぞ。そう、あれは・・”キングギドラ”だ!

 僕が生まれて初めて映画館で観た映画、それは東宝チャンピオン祭りの「怪獣大戦争」だった。初めての映画館行きに興奮して、僕は両親にこう尋ねた。「映画ってどんなの?」「テレビの大きいのよ」「ふうん」。暗い映画館の中でどでかいスクリーンに最初に映し出された怪獣は、楽しみにしてたゴジラじゃなくて、モンスターゼロ、すなわちキングギドラだったんだ。そのあまりの迫力に、当時4歳だった僕は腰を抜かした。違うよ、テレビの怪獣とは。全然。これが本物だったんだ。

 引力光線の破壊力にちびりそうになりながらも、僕の頭にはしっかりと、こうインプットされてしまった。

 「本物の怪獣とは、キングギドラなり」

 キングギドラのデビュー作「地球最大の決戦」が初公開されたのは1964年。その約1年前にレイ・ハリーハウゼンの名作「アルゴ探検隊の大冒険」が公開されている。この映画の中で7つの首を持つ竜ヒドラというのがが出てくるんだけど、キングギドラは、これにヒントをもらっているんじゃないか、と僕はにらんでる(しっぽも2本だし)。もともと第1作「ゴジラ」が、ハリーハウゼンの「原子怪獣現わる」に強い影響を受けてるってことを考えると、円谷英二が彼の作品をチェックしていた可能性は非常に高い。

 海外のモンスターたちは、最期には必ず主人公にとどめを刺されて幕を閉じる。この主人公の英雄的活躍こそが、物語のクライマックスなのである。しかし、日本の怪獣は、そんな生易しいもんじゃない。ゴジラにはじまった怪獣たちの凄まじい破壊力。そしてその脅威に立ち向かう力を、人類がまだ持ち得ないという恐怖。我々に出来ることといえば、その破壊神たちが去るのを、ただひたすら祈ることだけである。まるで台風が通り過ぎるのをじっと待つかのように。

 この、日本と欧米との違いは、恐らく特撮技術の発達の歴史に原因がある。人形アニメーションや機械仕掛けのモンスターと実写の合成が主流の欧米の特撮手法に比べ、着ぐるみの怪獣がミニチュアの街をぶっ壊す東宝円谷特撮の破壊の規模は桁が違う。そして、この大破壊の頂点を極めた怪獣、それがキングギドラだったんだ。

 「怪獣大戦争」を観終って、映画館から出た僕は、フぬけになってた。ゴジラ、ラドン、そしてキングギドラ。これが怪獣かぁ。す、すげえ・・。このときから、僕の怪獣人生が始まった。

(1999/12)